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【第29回】小林製薬株式会社のサプリメント事件から学ぶ ― 健康食品の安全を守る取り組み―

カテゴリー:専門家に聞きました
更新日:2026/03/02

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科
新潟大学健康教育イノベーションセンター
新潟大学ビッグデータアクティベーション研究センター

曽根 博仁 (そね ひろひと)

もくじ

  1. 小林製薬株式会社のサプリメント事件とは
  2. 被害を広げた背景
  3. 情報共有と報告体制の重要性
  4. 医療現場と消費者の意識
  5. 製造基準などの見直し
  6. 情報発信とリスクコミュニケーション
  7. おわりに

 

1.小林製薬株式会社のサプリメント事件とは

 2024年に発生した本事件は、健康食品によって腎障害を中心とした多数の健康被害を生じ大きな社会問題となりました (1) 。当該企業から行政機関への報告等が遅れたことで多くの被害者を出し、しかも輸出もされていたため、健康被害は海外にまで及びました。後の検討により、製造過程で混入した青カビが作った有害物質である「プベルル酸」に腎毒性があることが判明しました。しかし、この事件は単なる「一企業が起こした食中毒事件」を超えて、健康食品業界の安全管理、行政の対応、そして私たち消費者や医療者の意識における多くの課題を浮き彫りにし、その後の新たな取り組みが始まるきっかけになりました。

 

2.被害を広げた背景

 この事件において、当該企業は最初の患者発生を知りながら、原因物質が特定できないことを理由に販売を続け、2か月も公表や報告をしませんでした。その間、多くの消費者は健康食品として摂取を続け、被害は急速に拡大しました。もし最初の段階で、当該企業が医療専門家に相談していれば、販売中止や自主回収が勧められ、被害者数は大幅に少なくなったはずです。さらに原因確定前でも可能な対症療法もあったことから、医療機関に通知されていれば、より的確な治療により被害の程度も少なくて済んだ可能性があります。

 

3.情報共有と報告体制の重要性

 これまでわが国では、健康食品による健康被害の報告がごく一部に限られており、しかも報告された情報も、製造販売企業、日本医師会、厚生労働省や消費者庁などに分散していました。そのため被害の全体像が見えにくく、対応が後手に回っていたという問題点が明らかになりました。
 この事件をきっかけに、2024年8月に内閣府令及び厚生労働省令が改正  (2) (3)  され、機能性表示食品や特定保健用食品 (トクホ) については、事業者による健康被害の報告が義務化され、原因が確定していなくても速やかに報告を行うことが求められるようになりました。
 また、これによって医療従事者や消費者からの情報も厚生労働省に集約し、専門家が評価・分析して必要に応じて公表や食品衛生法上の措置が可能になる仕組みが整いました。これにより、以前と比較して、早期の注意喚起や速やかな再発防止策が可能となりました。
 比較的少数であっても複数の報告が集まれば、重大な健康被害を見つける兆候になりますし、あるいは軽い症状であっても多数の報告が集まれば対策を考える手がかりとすることができます。したがって今後は、より早期の情報収集のために、オンラインなどを活用し、一般の人や医療者も簡単に被害を報告できる仕組みづくりが期待されています。

 

4.医療現場と消費者の意識

 このような事件の背景には「健康食品は薬ではないから安全」という誤解もありました。しかし、実際には、天然成分でも抽出、濃縮して錠剤化された場合などには、食品として食べた場合より、その成分をはるかに多く摂取することがあり、通常の食品では起こらないような影響が出ることがあります。したがって、消費者側としては、「自然由来だから安心」「薬より安全」という思い込みを見直す必要があります。特に、病気の治療目的でサプリメントを使うのは、本来の用途ではなく、医薬品治療の妨げになることもあります。今回の事件の製品も「コレステロールが高めの人向け」とされていましたが、実際には病気の治療目的で使っていた人も少なくなかったと考えられます。
 医療者も診療の際に、患者がどんなサプリメントを使用しているかを確認し、原因不明の症状があればその関与を疑うことが重要です。さらに、医療者側からも重症例だけでなく、軽症例や疑い例であっても積極的に報告することで、早期発見と対策につながります。

たくさんの錠剤やカプセルをもつ公式アンバサダーさっぷりんFのイラスト

5.製造基準などの見直し

 本健康被害事案を受け、天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等の機能性表示食品及び特定保健用食品については、GMP基準に基づく製造管理を実施することを要件化しました (4) (5) 。 

 

6.情報発信とリスクコミュニケーション

 健康食品の種類や成分は膨大であり、消費者はもちろん医療者であっても、すべてを把握するのは困難です。そのため、成分ごとの副作用や安全性に関する情報を集めたデータベースが不可欠です。
日本では「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所」が「健康食品の安全性・有効性情報」 (6) を公開しており、誰でも確認できます。
 消費者が正しい情報を得て、安全に使うためには、また、消費者の体調不良が、健康食品による健康被害であることに医療者が早期に気づくためには、このような公的情報源の活用が大切です。また、医薬品や他の食品との「飲み合わせ」リスクにも注意が必要です。

 

7.おわりに

 健康を促進するためのサプリメントや健康食品が健康被害を起こすことは、消費者にとって、そして製造販売者にとっても大変痛ましいことです。
 今後は、企業の責任ある対応、行政のモニタリングと対応、医療者の協力、そして消費者の正しい理解と適切な利用という“四つの柱”  (下図)  で、より安全性を高めていくことが求められます。この事件を教訓として、健康食品が本当の意味で健康の維持増進に寄与するものとなるよう、社会全体で意識を高め、さらに仕組みの整備を図っていくことが重要です。

 

参考資料
(1) 厚生労働省 紅麹を含む健康食品関係(令和6年3月~)
(2) 厚生労働省 機能性表示食品等に係る健康被害の情報提供の義務化について
(3) 消費者庁 機能性表示食品の今後について(8月23日一部修正板)
(4) ○ (食品表示法) 内閣府告示108号 (令和6年9月1日付け施行)
(5) 消費者庁 特定保健用食品のうち天然抽出物等を原材料とする錠剤、カプセル剤等食品の製造又は加工の基準
(6)国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 「 健康食品 」の安全性・有効性情報

 

曽根 博仁 (そね ひろひと) 略歴
現職   
  新潟大学医学部 血液・内分泌・代謝内科 教授
新潟大学健康県教育イノベーションセンター長
学歴・職歴  
1990年 筑波大学 医学群 卒業
1990年 筑波大学附属病院 内科 研修医
1997年 米国ミシガン大学 研究員
1999年 筑波大学医学群 講師
2006年 お茶の水女子大学生活科学部 准教授
2009年 筑波大学水戸地域医療教育センター 教授
2012年 現職
主な役職  
  内閣府「食品衛生基準審議会」部会長、厚生労働省「機能性表示食品等の健康被害情報への対応に関する小委員会」座長、日本内科学会理事、日本栄養・食糧学会副会長、日本臨床運動療法学会副理事長、日本糖尿病妊娠学会副理事長、日本臨床栄養学会理事、日本内分泌学会幹事など
主な受賞  
2010年 日本糖尿病学会 学会賞
2019年 アジア糖尿病学会 (AASD)  疫学研究賞
2024年 日本栄養・食糧学会 学会賞
  専門分野 代謝内分泌内科学、動脈硬化学、臨床疫学、栄養食品学、運動療法学など

 

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